若き店主と囚われの薔薇
「…………」
テント内が、安堵のため息で包まれる。
心配したエリーがこちらへ駆け寄って、「大丈夫?」と様子を伺ってくる。
「…ぼくは大丈夫だけど…ロジンカちゃん、叩かれたところが…」
赤くなってる、と、身体を起こしたテンの手が、私の頬に触れる。
その手は温かくて、彼はちゃんと血の通った、生きた人間なのだと思った。
『貴様ら奴隷は、ただ道具のようにそこに存在することしか許されない!』
…そんなはず、ない。
絶対、ないわ。
「…何なのよ、あの人」
ふつふつと怒りが湧き上がってきて、ぎゅう、と手のひらを握りしめる。
はたかれた頬が、ジンジンと痛む。
「おかしいわ…あんなの、絶対おかしい」
あんな。
まるで、人権を無視したような、考え方。
エルガが、老人の去って行ったテントの出入り口を見ながら、口を開いた。