若き店主と囚われの薔薇
物音を立てないよう、よろよろと立ち上がる。
隙間から漏れた月明かりに導かれるように、私はテントを出た。
「…………」
テントの前で夜空を見上げると、そこには満月があった。
月の光が赤髪を透かし、夜風がゆらゆらと揺らす。
満月を眺め、目を細め、そして、閉じた。
……私は、彼が全てだった。
彼のために生きて、彼のために死ぬのだろうと、信じて疑わなかった。
彼がいるから、私は生きている。
彼の声で目を覚まし、彼の声を聞くために喋る。
彼のために笑い、泣き、彼を抱きしめる。
私の生死 、行動を決めているのは、彼だったから。
自分の頭で考え、自分の意志で進む道を決めるということを、私はしたことがなかった。
目の前が真っ暗だ。
何を頼りに生きていけばいいのか、わからない。
それがこんなにも怖いなんて、思わなかった。
自分がなんのために生きているのかわからないのに、ただ漫然と生きていくなんて、私にはできない。