若き店主と囚われの薔薇
「……そんなに、この世界が怖いか」
彼が言った言葉に、私は目を見開く。
廃れた建物が並ぶ村の夜は静かで、彼と私の声はよく聞こえた。
「………怖いわよ。当たり前でしょ」
声は、震えてしまった。
再びじわじわと瞳に溜まり始めた涙が、視界を歪める。
怖くないとでも、思っていたの?
そのうち慣れるとでも、思っていたの?
怒りを堪えながら、エルガを見つめる。
彼の目には、動揺など微塵も感じられなかった。
そのことにまた腹が立って、私は思わず声を荒げた。
「…いきなり、こんなところに連れてこられて!売り物にされて!いつ帰れるかもわからないのに…!怖いわよ、怖くてたまらない!」
もう、嫌だ。
突然変わった状況に、心がついていかない。
わかったのは、この薄暗い世界には、希望なんて存在しないということだけ。
こんなところで、目的もなく生きていけるはずがない。
人を人として扱わない人間がいるこの世界で、ただ傷つきながら生きていくくらいなら、死んだ方がマシだ。
唇を噛んでエルガを睨む。
彼の態度はやはり、冷静だった。