若き店主と囚われの薔薇



「……俺は、見ているだけだ」



その、呟きにも似た言葉に、私はそれ以上口を開くのをやめた。


「お前ら奴隷が、何を思い、考え、どう生きるのか。俺はそれを、奴隷屋の店主として、見ているだけだ」

「……………」


見ている…だけ。

私達が、どう生きるのか。

エルガはその立場から、見ているだけ。


「俺の言葉は、お前を縛らない。お前は自由だ。生きようが死のうが、お前が決めろ。自由とは、そういうことだ。自分の意志で、全てを決めるということだ」


自由。

それは私にとって、私のことを指す言葉として、受け入れ難いものだった。

…自由なんて、いらない。


「私は、クエイト様のもとで生きていきたい。自由なんて、欲しくない」

「なら、そうしろ。お前がそうしたいなら、すればいい。決めていいんだよ、お前の意志で。それが自由だって言ってるんだ」

「……………」


クエイトに縛られ、彼のもとでのみ生きる。

それを望むなら、そうすればいい。

私は自由だから、私の意志で、そうしようと決められる。

…ああ、そうか。


そう、なのか。



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