若き店主と囚われの薔薇


「…お前には今、何もない。どう動こうと、誰にも咎められない。だからこそ、お前の意志を全うしろ。望みを叶えるために、お前のために、生きていいんだよ」

「…私の…ために?」

「主人のために生きたいというのがお前の望みなら、そうすればいい。それは、お前がお前の望みのために、生きることになるんじゃないのか」


…考えたこと、なかった。

私が、私のために生きるなんて。

クエイトのために生きることは、私のために生きることでもある。


…けれど、怖い。

クエイトのもとへ帰れるかもわからないのに、ここで生き続けるなんて。


「無理よ、そんなの…きっと、耐えられない」

「いずれにしろ、今お前にあるのは二択だ。ここで生きるか、死ぬか。耐えて生き続ける自信がないなら、お前は今ここで死ぬのか?」

「………………」


死ぬ。

死んだ方がマシだとは思ったけれど、実際に死ぬとなると、やはり怖い。

このまま、ここで途方もなく生きていくのと、今から死ぬのは、一体どちらの方が恐ろしいのだろう。



< 53 / 172 >

この作品をシェア

pagetop