若き店主と囚われの薔薇
俯いて黙った私を見て、エルガは小さくため息をついた。
あんなに怒って訴えたくせに、迷いがあるなんて、呆れただろうか。
「死に迷いがあるのは、まだ生きたいと思っている証拠だ。死ぬ覚悟もないくせに、わざわざ死にに行くことはないと思うがな」
「…わかってるわよ…」
「…お前が今、少しでも生きたいと思っているなら、それを意地でも貫き通せ」
顔を上げると、エルガはまっすぐに私を見ていた。
先程より、強い色で。
「見ているだけの俺に言えるのは、これだけだ」
彼の黄緑色の瞳が、月明かりで透き通って見えた。
「どうせなら、俺の記憶に残るくらい、強く生きてみせろ」
道標はもう、ない。
けれど、私の生き様を、彼が見ていてくれると言う。
…私が必死に生きた証を、彼の中に残してくれると言う。
強く、生きれば。