若き店主と囚われの薔薇


思わず逃げ出しそうになる私を、逃がさないというように、彼は私の瞳を捉えてきた。


「お前は、今どうしたい?」

「…………」


どうしたいか、なんて。

そんなの、決まっている。


ぎゅ、と服の布地を握りしめて、私は懸命に声を出した。



「クエイト様のもとへ、帰りたい」



私の返事に、エルガは優しく笑った。

見たことがないほどに、やさしく。


「それでいい。そのために生きろ。なにがなんでも」


生きる。

あの方に、もう一度会うために。

あの方のもとへ、帰るために。

意地でもこの意志を、貫き通して。

この意志を、生きる道標にして。


前を見据えた私に、エルガはフ、と笑った。



< 55 / 172 >

この作品をシェア

pagetop