若き店主と囚われの薔薇
思わず逃げ出しそうになる私を、逃がさないというように、彼は私の瞳を捉えてきた。
「お前は、今どうしたい?」
「…………」
どうしたいか、なんて。
そんなの、決まっている。
ぎゅ、と服の布地を握りしめて、私は懸命に声を出した。
「クエイト様のもとへ、帰りたい」
私の返事に、エルガは優しく笑った。
見たことがないほどに、やさしく。
「それでいい。そのために生きろ。なにがなんでも」
生きる。
あの方に、もう一度会うために。
あの方のもとへ、帰るために。
意地でもこの意志を、貫き通して。
この意志を、生きる道標にして。
前を見据えた私に、エルガはフ、と笑った。