若き店主と囚われの薔薇
それでも、私には知識がなかった。
クエイトの邸で四年を過ごしたが、その間に外へ出たのは数えるほど。
私には、彼のもとへ帰る手段がない。
手段を知る、機会がない。
…機会をつくる、術も知らない。
そのことに私は、焦りを感じ始めていた。
*
「エルガ・ラルドス。あなたに『届け物』です」
そんなある日の、雨上がりの朝だった。
長いローブに身を包んだ『彼ら』が、この奴隷屋を訪れたのは。
「…………」
怪しい、と思った。
同じような格好をした、背の低い二人組。
彼らは深くフードを被っていて、テントの中にいる私には、顔が見えない。
…『届け物』?
客ではないのか。
けれど、この二人組に驚いているのは、私だけのようだった。