若き店主と囚われの薔薇
「ああ、ご苦労」
エルガはテントの前に立った彼らを見て、さして表情も変えずに近づいて行く。
差し出された封筒をエルガが受け取ると、彼らは瞬く間に飛び上がって、姿を消した。
「……え!?」
慌ててテントから出て、外を見回す。
彼らがいたのは、通りを挟んでテントの向かいにある、寂れた建物の屋根の上だった。
どうやって、あんなに高いところまで…?
何も言えずに見上げる私を、彼らは感情の読めない瞳で一瞥して、去っていった。
「………」
「そっかあ。ロジンカちゃんははじめて見るんだよね。『届け屋』さん」
私が立ち尽くしていると、テンが笑いながら近づいてくる。
…『届け屋』さん…?
聞いたことのない言葉に、私は眉をひそめた。
すると、エルガが封筒を見つめながら、「中に入れ」と促してくる。
大人しく指示に従ってテントへ戻ると、エルガが「今のは」と説明を始めてくれた。
「『届け屋』と呼ばれる人間だ。各地に存在する『依頼所』に雇われてる、言わば『裏の郵便屋』」
「…郵便屋ってことは…手紙や荷物を運ぶの?」
「ああ。だがその内容は、貴族達が秘密裏にやりとりしてる文書だとか、賄賂だとか、そういうものだ」
「……………」
怪しいとは思ったが、本当に『裏の仕事』を請け負う人間らしい。
この世界には、私の知らないことがまだたくさんにあるのだ。