若き店主と囚われの薔薇


…届け屋…そんな職が、この世界にあるなんて。


エルガは私の肩をトン、と叩くと、「考えるのは夜にしろ」と言う。

その顔は、やはり笑っていて。


「開店するぞ。準備はいいか?」


そう子供達に呼びかけると、彼は自分のテントへ荷物を取りに行った。


…面白がっている、あの男。

私がこの可能性に気づいたことで何が起こるのか、彼はそれを楽しみにしているのだ。


『お前ら奴隷が、何を思い、考え、どう生きるのか。俺はそれを、奴隷屋の店主として、見ているだけだ』


以前のエルガの言葉を思い出し、少しばかり悔しくなった。


…エルガは、『お前が生きるために、俺を利用しろ』と言ったけれど。

あの男は、自分から私に手を貸そうとはしないだろう。

『私から』彼を利用しようとしなければ、彼は何もしてくれないのだ。


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