若き店主と囚われの薔薇


「…『届け屋』、か」


浮かんできた可能性。

けれど、そのためにはまだまだ情報が足りないな、とぼんやり思ったのだった。





正午までに封筒の中身を確認したエルガは、昼過ぎに「移動するぞ」と言った。

移動?

エルガの言葉に、子供達がテントの中の荷物を片付け始める。

戸惑う私に、奴隷用の簡素な布をたたみながら、エリーが声をかけてくれた。


「あのね。今からテントをたたんで、他のところへ行くんだよ」


エリーの言葉に、私は驚いた。

移動というのは、テントごと移動するということか。

別の場所に、テントを移す。

先程の封筒に、エルガにそう決意させる何かがあったのだろうか。


それから私達は、それぞれに荷物を持つと、エルガを先頭に歩き始めた。


エルガは、人通りの少ない道を選んで歩いているようだった。

驚いたのは、私達奴隷になんの枷もつけずに歩かせていることだ。

『枷はつけないのか』と尋ねると、『つけてほしいのか』と返された。

もちろんそんなわけはないので、首を横に振る。



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