若き店主と囚われの薔薇
『…でも、私達がこの隙に逃げるとは考えないの?』
『逃げたいなら、逃げればいいだろ』
ただし、その度胸があるなら。
彼の目に、そんな言葉が付け加えられているように感じた。
『…………』
彼は、私達が逃げない、逃げることができないことをわかって、枷をつけないでいるのだ。
それがわかって、私はそれ以上なにか言うのをやめた。
「……………」
背の低い子供達のいちばん後ろで、私達以外人のいない細道をひたすらに歩く。
周りの木々から射す木漏れ日を見つめながら、私は考えた。
…『逃げたいなら、逃げればいい』なんて。
エルガにとって、私達は商売道具のはずだというのに。
逃げられて、困るものではないのか。
よくよく考えれば、彼はいつもそうだ。
商品である私達に、まったく執着しない。