若き店主と囚われの薔薇
知らない歌だった。
それでも、俺はその聴き惚れるほどの上手さと美しさに、一瞬息をするのも忘れた。
言語はこの国、ペルダインのものだから、この国の歌なのだろう。
しかし、奴隷である彼女が、教養としてどこかで習うはずがない。
何故うたえるのか、何故こんなにも上手いのか。
俺は様々なことを考えながら、ロジンカの目が開かれるのを、テントの前に立って待っていた。
「……………」
彼女は目を開き、仰いでいた顔を動かすと、俺の存在に気づいて目を見開いた。
「あ、あなた…いつからいたの」
「二分ほど前からだ。残念ながら、聴けたのは最後の方だけだ」
俺がさして取り繕うことなく言うと、ロジンカの方がより狼狽えた。
「そ、そう…なの。起こしてしまったのね。ごめんなさい」
「いや、別にいい。それより、お前は歌が得意なんだな」
そう言うと、俺が褒めていると気づいたのか、ロジンカはほんのりと頬を染めた。