若き店主と囚われの薔薇
こんなところで生きていくなんて無理だと、はじめ彼女は泣いていたが。
もともと、表情豊かな方なのだろう。
よく笑い、喋る。
…同時に、夜はひとり、外で泣いているのも、俺はわかっていた。
「ねえ、エルガ」
黙って目の前の少女を見ていると、突然話しかけられた。
ロジンカは、小さく笑っていた。
「…今夜はなんだか、眠れないの。起こしてしまった上に悪いのだけど、少しでいいから私の話に付き合ってくれないかしら」
岩の上に行儀良く座って、彼女はこちらを見てくる。
そのぴんと伸びた背筋から、彼女は過去の主人に、きちんとしつけられたのだろうと思った。
「…いいが、俺は聞くだけだぞ」
「構わないわ。私の昔話をするだけだから」
「…好きに話せ」
そう言って、俺は岩の近くの地面に座り込んだ。
俺を見下ろして、ロジンカは面白そうに笑った。
それから彼女は、再び夜空を見上げて口を開く。
「私ね、クエイト様に出会う前までの記憶がないの」
さすがの俺も、少しばかり驚いた。
ロジンカは、なんでもないような顔をしている。