若き店主と囚われの薔薇
『聞くだけだ』と俺が言ったからか、彼女は俺の返事を待つことなく、続けた。
「記憶がないって言っても、印象深いものは断片的に覚えているのだけれど。…私はこの国の生まれではなくて、他の国の貧しい地域で暮らしていたこと。なんとなくだけど、覚えてる」
そう言うと、ロジンカは目を伏せ、自分の髪に触れた。
「ほら、私の髪の色って、珍しいでしょう。この国で、珍しさは価値となるけれど、私が生まれた国で、珍しさというのは忌むべきものだった」
それからロジンカは、「髪色を理由に、迫害を受けた」と言った。
風が、彼女の髪を揺らす。
どちらかといえば黄に近い赤が、ゆらゆらと揺れた。
赤毛を理由に、周囲から傷つけられたことは、よほど衝撃的だったのだろう。
そのショックで、記憶を失ったのかもしれない。