若き店主と囚われの薔薇
「私はあのとき、自分が誰なのか、どうしてここにいるのかわからなかったけれど。…すぐに、あの方が私を迎えに来て下さったの。優しく、手を差し伸べて下さった」
月明かりが、赤毛特有の白い肌を際立たせる。
恍惚とした微笑みで当時のことを思い出すロジンカを、俺は何も言わずに見つめていた。
「クエイト様…私の永遠のご主人様。唯一無二の、神にも等しいひと。優しいひと、美しいひと。彼がいたから、私は今『ロジンカ』として生きているの」
この少女が、心の底から『クエイト』を慕っていることは、表情から充分にわかった。
ただその執着は、俺が思っていた種類のものとは、微妙に違っていることにも、同時に気づいた。
奴隷が執着するのは、主人であったり物であったり、神であったり。
彼らは、それらに囚われている。
…ときには狂気的に、慕い、仕え、命すらかけてしまう。
そういう奴隷の瞳というのは特徴的で、見慣れている俺にはすぐにわかるのだが。
……ロジンカが『クエイト』を語るときの瞳は、本当にやさしく純粋な、ひとりの少女としての色だったのだ。