若き店主と囚われの薔薇
「クエイト様は、私のこの髪を、美しいと言って褒めて下さった。薔薇のようだと言って、インカローズの名を与えてくださった…私という存在は、あの方によって証明されたのよ」
ほんのりと頬を赤く染めて、瞳を細めて。
ロジンカは、柔らかく笑う。
俺はその姿を見つめて、そうか、と思った。
…これは、恋をしている女の目だ。
そして、誰かに心からの忠誠を誓った人間の、ひたむきな瞳。
愛した男を語る、女の瞳。
俺が見てきた奴隷達が、執着する『何か』を語るとき、こんなにも生き生きとした目はしない。
この少女が本当に、『クエイト』という主人に大切にされていたのだと実感した。
ロジンカは「それでね」と、楽しそうに思い出を話す。
美しく、穏やかな夜だ。
こんなにも幸せそうに主人を語る奴隷を、本当に久しぶりに見るな、と俺はぼんやり考えた。
「クエイト様は、私に色んな事を教えて下さったの。この国の言葉、習慣、文化…その中でも、歌は特にたくさん」
なるほど、と思った。
先程の歌も、主人に習ったものだったのか。