若き店主と囚われの薔薇
「私が習った歌をうたったら、クエイト様はそれはそれは褒めて下さったわ。そのとき、私が昔、歌をうたうのがとても好きだったことを、思い出したの」
そう言うと、ロジンカはまた短く歌をうたった。
明るく、伸びやかな歌声だった。
それこそ、どれくらい聞いても飽きないほどの。
ロジンカはうたい終わると、俺を見て、嬉しそうに笑った。
「ねえ、今夜は月が綺麗よ。こんなにも素敵な夜は、久しぶり。私、今、とってもいい気分」
…確かに、俺の店へ来てから、こんなにも明るい笑顔をするのは初めてかもしれない。
「…そうか」
「あなたのおかげよ。ありがとう」
この少女は、とても素直だ。
自分が悪いと思えばすぐに謝るし、相手に良くされたと思えばすぐに『ありがとう』と言う。
その単純さは、十七歳くらいの彼女を年相応に見せて、俺は少しばかり安心した。
奴隷の子供に対して保護者目線になるなんて、俺にはよくあることなのだが。
…それでも湧いてきた情は、これまでにないほど暖かなものだった。