若き店主と囚われの薔薇



「…ありがとう、テン」


微かに涙を浮かべたテンの瞳が、細められる。

そしてすぐに、彼は眠りについた。



…死なない。絶対に。

あの方にもう一度会うまでは、死んでも死にきれない。

危ない仕事だというのは、わかっている。

けれど、少しでもその可能性があるのなら。

…賭けてみない手は、ないのだ。





次の日の晩、食事を終えた後、私はエルガのテントへ行くことにした。


何度も『届け屋』から封筒を受け取って移動しているのならば、自ずとエルガは『届け屋』の知識も多く持っていることになるだろう。

手っ取り早く、訊けばいいのだ。

無駄な迷いは必要ない。


そう考え、奴隷達のテントを出る。

薄暗い外を眺めながら、夜の澄んだ空気を吸った。

今夜は、関所の近くの森でテントを張った。

見上げれば、木々の隙間から夜空が見える。

隣のテントに明かりがついているのを確認して、私はテントの入り口に立った。



< 84 / 172 >

この作品をシェア

pagetop