若き店主と囚われの薔薇
夜にひとりで、彼のテントを訪ねるのははじめてだ。
少しばかり緊張する。
「…あの、エルガ。私よ、ロジンカ。訊きたいことがあるのだけど、入ってもいい?」
できるだけ大きく口を開いて、声を掛ける。
けれど、返事がない。
不思議に思って、私はもう一度声をかけた。
「…エルガ?」
………辺りに、沈黙が落ちる。
風が吹いて、私の赤髪を揺らした。
寝ているのかと思ったが、彼は普段、私達が寝静まるまで起きている。
彼が、わざわざ無視をするとは思えない。
おかしい。
どうして返事がないのだろう。
なんだか不安で、落ち着かなくなった。
「…………」
躊躇いながらも、私はテントの入り口に手をかけた。
…だって、万が一のこともあるじゃないか。
彼に死なれでもしたら、私達は生きていけないのだから。