若き店主と囚われの薔薇


「………エルガ?」


テントの中へ入って、様子を伺う。

中には、ランプの置かれた小さな机と椅子、寝床。

生活するための最低限のものが、綺麗に置かれていた。

「…………」

きちんと整頓されているのが、彼らしいと思う。

けれど、当人の姿は見当たらなかった。


…どこへ行っているのだろう。

万が一として考えていた、彼が倒れているという可能性はなさそうなので、安心したけれど。

なんとなく周りを見回して、ある物に目が止まった。


机の上の、ランプの奥に置かれている、長方形で厚みのある鞄。


『クエイトに会うまで生き抜く』と決意した夜、エルガの片手に握られていたものだ。

それが、今日は無防備にも開かれている。

その中身に、私の視線は釘付けになった。


…きらきらと輝く、たくさんの種類の美しい石たち。

それらが、区分けされた鞄の中のケースに、整頓されて収まっていた。



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