若き店主と囚われの薔薇
「…………」
……『宝石商』。
そうだ、彼は、そうだった。
流石に盗ろうなどとは思わないけれど、こんな高価なものを晒していて大丈夫なのだろうか。
恐らく、奴隷ひとりが取引される値段など比べ物にならないほど、高値がつくものたちだ。
今にも泥棒が入りやしないかと気が気でない。
けれど、私がその場から動けなかったのは、別の理由があった。
……クエイト様は。
宝石に、とても詳しい方だった。
集めるのがお好きだった。
私にも、よくコレクションの数々を見せて下さった。
…だからこそ、彼が宝石の名を与えて下さったことが、嬉しかった。
見れば見るほど、クエイトとの思い出がよみがえってくる。
無意識に足を動かしていて、気づけば机の前に立っていた。
そして、鞄の横に、見たことのない石が置かれているのに気づく。