若き店主と囚われの薔薇


…まずい、誤解されている。


「…ち、がうの。えっと、あの、あなたに、訊きたいことがあって」

「………」

「か、勝手に入ったことは謝るわ!ごめんなさい。けど、この鞄、あなたの仕事道具でしょう?開いていたから、驚いて…盗んだりしてないわよ、決して!」

「…わかってる」


…え?

必死に弁解していたから気づかなかったけれど、彼の顔はいつの間にか、気まずそうな表情をしていた。


「……悪い。お前が盗もうとしていたとか、そんなことは思ってない。…つい、カッとなって叫んだだけだ。怯えさせてすまない」

「………そう、なの…?」

「…ああ。…その翡翠はな、商品じゃなくて俺の私物なんだよ」


私物。

…この、翡翠のペンダントが。

誰かに贈られたものなのか、…それとも、彼が誰かに贈ろうとしているものなのか。

けれど、そんなこと私は訊けない。

…訊く必要など、ない。



「…そう、だったの。…えっと、あの、私…」


エルガが私の横に立って、宝石の入った鞄を片付け始める。

翡翠も鞄に収められていくのを横目に、私は戸惑っていた。



< 89 / 172 >

この作品をシェア

pagetop