若き店主と囚われの薔薇


…エルガの、あんなにも必死な顔を。


私は、はじめて見た。



「…なんだ。俺に、訊きたいことがあったんじゃないのか」

「………」

「早く言え」

ーーパタン。

鞄が閉じられて、エルガがこちらを向く。

私は、何故か声が出なかった。

頭の中で色んなことが駆け巡っていて、肝心なことを考えられなくなっていた。


「…なんでも、ないわ。また今度にする」

辛うじて喉から出たか細い声に、エルガは目を伏せた。

「…そうか」

「ええ。……おやすみ、なさい」

「ああ」

その場から逃げ出すように、私は早足でテントを出た。



…なんなのだろう、この気持ちは。

彼の、知ってはならない場所を知ってしまったかのような、罪悪感。

驚き、戸惑い。



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