若き店主と囚われの薔薇
エルガは普段から、私達奴隷と必要以上に関わろうとしない。
私達の過去を詮索したりもしなければ、彼自身のことについても、話そうとはしない。
だから、私にとって彼は、生きる上で利用することができる『奴隷屋の店主』、ただそれだけだった。
けれど、彼もひとりの人間なのだ。
奴隷屋の店主、宝石商。
その前に、ひとりの男でもある。
このペルダインで生きる、人間なのだ。
彼には彼の考えがあり、過去があり、大切なものがある。
それを、私は先程やっと理解した。
あの翡翠は、エルガが大切にしているもの。
あんなにも、声を荒げるほどに。
「……………」
奴隷達のテントへ戻ると、既に何人かの子供達が寝ていた。
私を待ってくれていたらしいテンとエリーは、私の姿を見るなりホッとした顔をする。
けれど、テンは私の表情を見ると、顔を曇らせた。