若き店主と囚われの薔薇


あの満月の夜、私の歌を褒めてくれた。

エルガの優しい表情が、忘れられない。


心のどこかで、このままで終わりたくないと思っている、私が確かに存在していた。






謝ろう、もう一度。

そう決意して眠りについた次の朝、エルガが「今日着く」と私達に告げた。

もう五日間も歩き続けていたので、その言葉に私達は喜んだ。

それから、夜がくるまでは早かった。


…謝る。彼に、もう一度。

意図せずとも、彼の内側に立ち入ってしまったこと。

私が無断で彼のテントへ入ったことを、彼は結局咎めなかった。

あれは、彼なりの優しさだろう。

あちらから『すまない』と謝ってきたけれど、明らかに悪かったのはこちらだ。

だからこれからは、きちんと分別をつけて行動しよう。

エルガに訊くべきことをしっかりと訊いて、そして考えるのだ。


私がこれから、どうするのかを。



そして夜、私達がテントを張ったのは、また森の中だった。

海が近いのか、夜の静けさに混じって、波の音が微かに聞こえてくる。

食事も終わり、他の子供達が寝静まった頃、私はテントを出た。



< 93 / 172 >

この作品をシェア

pagetop