若き店主と囚われの薔薇
「…………」
夜空を見上げると、欠けた月が見えた。
見つめているうちに、雲に隠れてしまう。
雲を通して淡い光を放つ月を、私は目を細めて見つめ続けた。
…行動するのは、早い方がいい。
そう思い、私は夜空から目を離した。
そして奴隷達のテントの隣を見て、驚いた。
…エルガのテントが、ない。
ほんの数時間前まで、あったのに。
私たちが食事をしている、その最中は、確かに。
では、それから今までの間に、テントは消えたというのか。
「…………」
ほら、また。
怖くなってる。不安になってる。
ヒュウ、と風が吹いて、赤髪を揺らすだけで、心まで震えたかのような心地がする。
…確かに、行動は早い方がいいと、思う。
けれど、私はこの状況に急かされたいわけではない。
私は私のペースで知り、考え、行動したいと思う。