若き店主と囚われの薔薇


「…………」

夜空を見上げると、欠けた月が見えた。

見つめているうちに、雲に隠れてしまう。

雲を通して淡い光を放つ月を、私は目を細めて見つめ続けた。


…行動するのは、早い方がいい。


そう思い、私は夜空から目を離した。

そして奴隷達のテントの隣を見て、驚いた。


…エルガのテントが、ない。


ほんの数時間前まで、あったのに。

私たちが食事をしている、その最中は、確かに。

では、それから今までの間に、テントは消えたというのか。


「…………」


ほら、また。

怖くなってる。不安になってる。

ヒュウ、と風が吹いて、赤髪を揺らすだけで、心まで震えたかのような心地がする。


…確かに、行動は早い方がいいと、思う。

けれど、私はこの状況に急かされたいわけではない。

私は私のペースで知り、考え、行動したいと思う。



< 94 / 172 >

この作品をシェア

pagetop