若き店主と囚われの薔薇
適当な方向を選び、周りを見回しながらテントを探す。
けれど、私はテントを見つける前に、足を止めた。
「…あれは」
今、自分の目に映っているものを、思わず疑った。
…馬車が。
木々の隙間から、見える。
あれは、あれは。
あの、馬車は。
「…………」
今まででいちばん、大きく心臓が鳴った。
胸騒ぎ、なんてものじゃない。
秒刻みで、何かが私に強く訴えてくる。
ダメだ、行ってはいけない。
行きたくない、行ってしまったら、きっと、私は。
そう思うのに、足は止まらなかった。
知っている、私は。
馬車に描かれた、あの紋章。
何度も何度も目に焼き付けた、忘れもしない紋章だ。
馬車の方へ早足で歩くにつれて、その近くのエルガのテントに気づいた。
そのテントの前に、箱の荷物がたくさんに置かれている。
山積みにされたそれらの隙間から、エルガの背中が垣間見えた。