若き店主と囚われの薔薇
嘘つき、慟哭、その愛でしか咲けないのに
「へえ。いいですね。この色」
あんなにも恋い焦がれた声が、すぐ近くから聞こえる。
私はその場から、一歩も動けなかった。
ただ身を小さくして、愛したひとの声を聞いていた。
「そちらがお好みでしたら、こちらの色も良いかと」
「ああ!好きですね。さすがだ、ラルドスどの」
何故。
何故、あなたが…ここに。
頭の中が混乱していて、上手く息ができない。
けれど、ここで下手に動いては、気づかれてしまう。
……気づかれてしまえば、いいじゃないか。
そうして、あの方のもとへ駆けよってしまえば。
……そう、思うのに。
できない、私は。
今、私のすぐ近くで起こっていることは、決して私が望んだものではない。
見間違うわけがない、あの金髪、茶色い瞳、上品な低い声。
すぐ近くで、エルガと向き合って談笑をしている、あのひとは。
私の永遠の、ご主人様だ。