若き店主と囚われの薔薇

嘘つき、慟哭、その愛でしか咲けないのに




「へえ。いいですね。この色」


あんなにも恋い焦がれた声が、すぐ近くから聞こえる。

私はその場から、一歩も動けなかった。

ただ身を小さくして、愛したひとの声を聞いていた。


「そちらがお好みでしたら、こちらの色も良いかと」

「ああ!好きですね。さすがだ、ラルドスどの」


何故。

何故、あなたが…ここに。


頭の中が混乱していて、上手く息ができない。

けれど、ここで下手に動いては、気づかれてしまう。

……気づかれてしまえば、いいじゃないか。

そうして、あの方のもとへ駆けよってしまえば。


……そう、思うのに。

できない、私は。

今、私のすぐ近くで起こっていることは、決して私が望んだものではない。


見間違うわけがない、あの金髪、茶色い瞳、上品な低い声。

すぐ近くで、エルガと向き合って談笑をしている、あのひとは。

私の永遠の、ご主人様だ。



< 99 / 172 >

この作品をシェア

pagetop