文学彼氏
「どーしたの?」
「なにが?」
「え、だって、なんで瀬野くんがここに??」
驚きいっぱいの目で見つめると、瀬野くんはそんな私の両頬を片手で挟んで言った。
「何してるかな、って考えてたら、途端に会いたくなった。で、来た。」
「───、」
「……その顔やめてくんない」
どんな顔?
なんて思いつつ、薄々分かってる。
いきなり会えた嬉しさと信じられなさでもう口許も目も頬も、絶対だらしないんだ、きっと。
いつだって自分に正直な瀬野くん。
あたしは迷惑かけないように
困らせないように必死に口をつぐんでは胸の内に溜めてしまうけれど、
でも瀬野くんは会いたいと思ったらこんな風に行動に移してくれるから…
それがいつもいつもあたしの不安も寂しさも全部吹っ飛ばしてくれるんだ。
「わたし、この時間帯に帰って良かった〜」
「まさかタイミング良いと思ってんの? 軽く30分は待ったからね。何してたの」
「え、そ、そんなに!?
あの、普通に友達とお喋り…」
「うわ、女子高生だ」
「うわ、ってなに」
オレンジ色の空の下を
同じ歩幅で同じ距離で
帰れるって、すごい幸せ。