文学彼氏
手短めに別れを告げると
あたしは帰り道を走って帰った。
水たまりには
反対の世界が映っている。
クリアだ。
「ただいまっ」
『おかえり朔。なにをそんなに急いでどうしたの』
「あ、お母さんやらずの…っやっぱなんでもない!」
ここまできたら自分で調べたい。
私は部屋に駆け込むと
本棚から広辞苑を手に取る。
や、や、や行や行。
ページをめくる手が急かす。
や行のページの領域に入ると
一文字も見逃さないよう
じっくり見入った。
こんなに真剣に辞書を引くのは生まれて初めてだ。
あ、あった。
「っ…」
瀬野くんが言った『遣らずの雨』。
こ、こういう意味だったのか。
私の体温が上がったのは
きっと気のせいではないだろう。
【雨と君の言葉】
(だから自分で調べろって言ったのか…)