文学彼氏
あたしは空いてた距離を縮めるように瀬野くんの携帯に耳を近づけた。
〝…も、…ら…〟
思いっきり女性の声だった。
「っ」
「(うっとうしい)」
あいてる方の手で
頭をグイーッと遠ざけられる。
ひ、ひどっ!
「(なにさなにさ。瀬野くんのアホ)」
床に無造作に置いてあったクッションを抱きかかえるとモフモフと顔を埋める。
彼女を放ったらかしにして女の人と電話なんて、アホだアホアホ。
……こっちだけ見てよ。
「斎(いつき)、ちょっと待ってて」
「、」
瀬野くんは、電話の相手にそう言うと、一度耳から携帯を離して私のクッションを徐に取り上げる。
それだけの事なのに、構ってもらえた気がして少し嬉しくなる私は、本当に単純。
でもやだ。だから敢えて怒った声で言ってやりたい。
「なに?」
ワザと素っ気ない態度で瀬野くんの方を向いた瞬間
「?!」
ちゅ、と唇を塞がられた。