文学彼氏
その間、わずか二秒。
瀬野くんの意識はまた携帯ごしの相手へと戻らされる。
「(ず…ずっるー)」
「ごめん、ちょっと珈琲入れてきた。うん、大丈夫」
斎さんという女の人にそう言いながら、目は私をジッと捉えていて。
なんだなんだと思っていたら、一瞬の隙を突いてまたちゅ、と唇を奪う瀬野くん。
「っ」
「ん? うん、聞いてる、分かった。
田辺に言っとけばいいんでしょ、うん」
な、なに今の早業。
面食らうように目をぱちくりさせていたら今度は私の頬に手を添えだす瀬野くん。
「せのくん、でんわ集中して」
思わず先ほどとは正反対の言葉を掛けてしまった。と、言っても小声だけど。
瀬野くんは私のそんな小声に、口角を楽しむように上げて。
「ん、声? 別に誰もいないけど。
じゃあ、もう切るよ。また後日明確な日取りが決まったら連絡して。うん」
「…っ、え、ちょ、携帯!」
そうして切った瞬間、それが床にポイッと投げ捨てられる。