文学彼氏
実は、あたしごとではあるが好きな人に手作りチョコを渡すのは初めてだったりする。
今まで友チョコも買っていたし。
好きな人はいてもチョコを
渡す勇気なんてなかったし。
だから初手作りチョコなだけあって
気合いの入れ方も違う。
パラパラ、と雑誌をめくる。
うーん、どれにしよっかなあ。
ちなみに瀬野くんは、中々の甘党だ。
これはもう、とびっきり美味しくて甘いのを作るしかない。
「(一杯ありすぎて、逆に悩む…)」
生チョコ、トリュフ、チョコタルト…。
チョコマフィンもいいけど
チョコレートケーキも捨てがたい。
だんだん見てくうちに私が貰いたくなってきてしまった。
「なにそれ。バレンタイン?」
「っ、見ちゃ駄目!」
今の今まで本にしか興味を向けていなかった瀬野くんが、いきなりあたしの雑誌に目を向けてきた。
焦る様に雑誌を胸で隠す。
「へえー。作ってくれるの?」
「っ、う、ん。まあね」
恥ずかし気味に頷くと
心なしか嬉しそうな顔に。
その顔に思わず心が歯痒くなる。