文学彼氏
「ぁ、あー。ザハトルテットね。これ手軽に作れるし美味しいからいいよねー」
「ザッハトルテね」
あいにく作ったことも
食べたこともありません。
見え張ってどうする自分。
張れるほどの腕前じゃないよ。
一回溶かしたチョコ、もう一度固めることしかしらないよ。
「はい、楽しみにしてる」
「…うん」
しないで欲しい…。
眉を下げた顔で瀬野くんに訴えるも、その訴えは彼には届かない。
しょんぼりと雑誌を受け取り
徐にザッハトルテのレシピを見つめる。
うっ、わ…難しい。
でも、瀬野くんが食べたいって言ったし。
…作って喜ばせたい。
「(材料は…)」
「朔」
「うん」
相槌をうつものの、あたしの頭の中は、さっきやってきたザッハトルテという新参チョコで一杯であった。