文学彼氏
瀬野くんは所定の位置についた後
頬杖をついて、口許を緩める。
「って言ったら、意地でも作ってきてくれるかなって期待してたり」
「っ」
なんだ、それ。だとしたら見事にしてやられたりじゃん。
「くやしいけど、その通りデス…」
バタン、とそのままカーペットにもう一度倒れると、聞こえるのは楽しそうに笑う瀬野くんの声。
瀬野くんの手の中で
踊らされている気さえした。
「別に朔のチョコ
ならなんだっていいよ」
あんまり嬉しそうにそう言うから
あたしは何にも云えなくなる。
「失敗して焦げ焦げになったのでも?」
「………大丈夫、食べる」
「間があったね…」
なんでもいいなんて、優しいことまで言ってくれるけどでもバレンタインのチョコ決めたよ。
瀬野くんのために頑張る。
とりあえず、家に帰ったら
ザッハトルテの材料をメモろう。
【チョコよりも甘く】
(でもリアルに不味かったら観葉植物の肥料にするかもごめん)
(リアルに不味かったときのこと考えて保険かけてきたな!)