【短編】雪と鯨とフォトグラフ
「何、どした?」
「ううん、何でもない」
「由紀、雪だ!雪が降ったら、何かすげぇいい写真が撮れるような気がする」
「雪?」
私はついていたテレビの天気予報をじっと見た。
アイドルみたいなアナウンサーが、テロップを出している。
この三日間、ずっと晴れ。
雪の予報はない。
「三日間しかないんだよ?どんだけの確立よ、それ」
「いや、降る!降らなきゃ、困る」
「困るって…無理だって諦めな」
私がいつもようなノリで言うと、急に鯨が真剣な顔をした。
そして、「だからさぁ…」と後ろ頭をかいた。
「どうしてお前はいつもそうなわけ?最初から無理無理言ってたら、何もできねぇよ」
私はハッとした。
「俺は、とりあえず何でもかんでも信じてみたらいいと思う。つーか、そうするべきなんだよ、絶対。その結果傷ついたとしても、すべてを疑ってかかる人間になるより、ずっとマシ。そう思わねぇ?」
バカ。
そんなんだから、バカがつくほど正直とか言われるんじゃん。
いつか絶対騙されるからね。
何かの歌の歌詞みたいなセリフを、鯨はさらりと言う。
昔からある言い回し。
でも、まるで鯨だけの言葉のように、川の流れのようにさらさらと言う。
鯨は微笑んだ。