【短編】雪と鯨とフォトグラフ
その日の夜も、
次の日の朝も雪は降らなかった。
ついに、二日目の夕方。
明日の朝、フィルムを現像しないと締め切りに間に合わない。
もうダメだと思った。
でも、諦めたら……
鯨の夢も、私の告白も、なかった事になってしまう。
そんなの嫌だ。
鯨の気持ちが知りたい。
鯨には私がどんな風に映っているのか知りたい。
鯨の過去が知りたい。
鯨の事、もっともっと知りたい。
あの笑顔を思い浮かべるだけで、胸が苦しい。
ぼーっとして、何も考えられなくなる。
一緒にいるからこそ、すぐ近くにいるからこそ、
伸ばせないこの手がもどかしくて、切なくて、泣きそうになるんだよ。
鯨の背中は近いのに、すごく遠く感じるんだよ。
私は鞄から、昨日鯨の部屋から持ってきてしまった写真を取り出し、
もう一度見た。
「何でこんな写真……」
これを撮ったのはいつ?
どうして鯨はこんな写真を撮ったんだろう。
確かめたい。
どういう気持ちで撮ったの?
暇つぶし?
偶然あった被写体だっただけ?
それとも、何か意味があって、
これを撮ったの?
私はぎゅっと写真を握り締めてから、
服を着替えた。
確かめに行こう。鯨に。
このくらいの勇気は、でなきゃ困る。