【短編】雪と鯨とフォトグラフ
鯨はしゃがみ、
私の目の高さに目線を合わせて言った。
「俺、いつも見てたんだ。由紀のこと。ずっと見てた」
「……どういう意味?」
鯨は「ちょ、待って」と両手で顔を覆って恥ずかしそうにしてから、
咳払いをして、私の目を見て言った。
「初めは何なんだろうって思った。毎日毎日こんな所で遠く見て、何が楽しいんだろうって」
鯨は写真を一枚拾って、笑った。
「でも、思ったんだ。この場所から何が見えるんだろうって。由紀はここで、何を見てるんだろうって。それで、気になって気になって、由紀が窓から見えるたびに、シャッターを切ってた。夢中で。本当は内緒にしようとしてたんだけどさ。だって何かストーカーみたいだし…」
鯨はよく状況を理解していない私を見て、
小さくため息をついた。
そして笑って、しゃがんだまま、
そっと私を抱き寄せた。
私は鯨の腕の中。
鯨は、私に頬を擦り寄せた。
温もりが涙を誘う。
声が震える