【短編】雪と鯨とフォトグラフ

私は痛いくらいに、鯨を抱きしめた。

鯨もそれに答えて強く抱きしめ返してくる。



今まで感じた、もどかしい気持ち。

それを埋めあうように、抱きしめ合った。




ふっと肩に手を置かれて、ひょいっと体を離した。



鯨は顔を私に近づけた。

私はそっと目を瞑る。



「…ふっ?!」




キス……じゃなくて、

私はほっぺをつねられた。




「ちょ、いひゃい…!」




鯨はまゆげを垂らして笑っている。

私は涙目で鯨を睨む。



鯨は「よし!」と景気のいい声を出した。




「写真撮んぞ!ほら、こっち見て」

「え、うん…!」




鯨はつねっていた手を離し、
私の肩に手を回して、


精一杯手を伸ばしてカメラを自分達に向けた。






最高の笑顔。

シャッターを切る瞬間。




その瞬間、一瞬が永遠になった。

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