外国育ちのお嬢様は硬派がお好き
コロナをテーブルに置き、大きく深呼吸をして窓の外に目をやる。
ビルの屋上で赤く点滅するライトと心臓がシンクロする。
落ち着かない。
音楽が必要。リモコンのプレイボタンを押す。
流れてきたのは『チャック・ベリー』の「BACK IN THE USA」
「ロックっていう気分じゃないんですけど」
高鍋さんの意見は正しい。そうだねと言うとCD1からCD2に変更した。
『マディー・ウォーター』がスムースに流れる。
「片桐さん、渋いっすね。マディー・ウォーターなんか知ってるなんて、意外」
「私も高鍋さんがこれ知ってるなんて、すっごい意外」
しばらくの間、無言で音楽に耳を傾ける「恋愛に不器用な大人な二人」
最上階のバーから怒りに身を任せた男女二人が30階に向かっているなんて、
全く予想すらできなかった。
私たちはただただブルースの神様の奏でる音楽に心を癒して貰っていた。