外国育ちのお嬢様は硬派がお好き

結局、『かすみ』さんの正体は分からずじまいだ。
そして、契約上アメリカになんてまだまだ帰れない。

それから二日後の午後6時、恵比寿駅西口でマークとばったり会った。

仕事帰りだった私は行きつけのバーで軽く食事を済ませようと思っていた。

シェーン!
飛びっ切りの笑顔で手を振りながら近づいてくる。
その笑顔に怒りがふつふつと沸き上がる。
あんたがしっかりと私の不安を取り除いてくれたら、
こんなことにはならなかったのに・・・

「・・・何してんの?」冷たく言ってやった。
「今帰ってきた!」

知ってか知らずか、演技か演技じゃないのか、きっと考えて行動してる。
私がどう思ってるのか、ちゃーんと分かってるんだ。

「・・・おかえり」口だけで笑った。
「どこ行くの?」
「食事」
「僕もいい?」
「・・・どうぞ」

ロータリーを突っ切り、信号を渡る。
4階にあるそのバーは吹き抜けの造りになっていて、
週末にもなると生バンドも入り、けっこうな盛り上がりを見せる。
ピザとウーロン茶を頼み、一番近くの席に腰を下ろす。


富士山はどうだった?

当たり障りのない、旅行の感想を聞く。

夏なのに寒かったと模範解答が返ってくる。
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