東京
紗耶香さんは視線を花火から離さないまま
小さくため息をついた。


『雅也、私に近づかない方がいいかも。』


「は?」


『悠哉が静岡まで私を迎えに来るって。』


理解するのに時間がかかる。
東京の悠哉と言う男が
紗耶香さんを迎えに来た?

『私、悠哉に告白されてからすごく仲良くなった。私は社員で相手はバイトで、距離をおこうとかも思った。
こないだ喧嘩しちゃったしさ。
んで会話もないし連絡もとらないし結構しんどかったから旅行も行かないにして静岡帰ってきたさ。』



聞きたくない。
紗耶香さん、それ以上言わないで。


『多分私悠哉のこと好きさ。』



やっぱり。
痛いなぁ。俺。


『だから私。優しくしてくれる人に…』


元に戻りたい。
出会った春のように、ただ好きで。

毎日バカみたいに騒いで。笑ってた日に戻りたい。


「紗耶香さんはさ、俺の気持ち知ってるら?」

『迎えに来たら。
行きたいと思ってる。』


「紗耶香さん‥」
『気持ちはずっと知ってるさ。』


紗耶香さんはそっと立ち上がり、お尻の砂を軽くはたいた。

『近づかない方がいいかもだけん。任せる。
ごめん。』

タッタッタと
遠ざかる彼女の足音が耳に残る。



俺は頭を抱えながら
最後の豪快な連発の花火を
ただ一人で見ていた。
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