東京
「アッツ!」
部屋は相変わらず暑い空気が充満している。
『サウナじゃん!クーラーつけよう!冷蔵庫も全開にしよう!』
「いやお前冷蔵庫はほらダメだら。色々暖まるとまずいものが入ってるわけだからさ!」
『知るか!』
あゆみは部屋中の窓を閉めてクーラーをつけると
開けた冷蔵庫の前に座り込んだ。
「で?何した?」
に背を向けたまま黙り込むあゆみを、じっと見た。
「言いたくない?もしかして余計なお世話?」
隙を与えないように。話しかける。
隙を見せたら、あゆみは俺から逃げるだろう。
俺のために。
「静岡きた時聞いてあげらなかったこと聞きちゃあさ。何か言って?」
あゆみの肩は、深呼吸をしているようだった。
上下に大きく揺れ、呼吸を、気持ちを整えているのがわかる。
『ばっち。』
「ん?」
『私を嫌いにならない?』
「‥。」
『私の傍を離れない?』
妙に落ち着いた
細いあゆみの声と
夏の終わりを告げるような
セミの鳴き声だけが
部屋中に響いた。
「離れない。」