東京
今、何て?

誰の?

いつ?

一人で?


色々な言葉が頭に浮かんだけど
何一つ声になって外に出てくることはなかった。

あゆみの小さな背中も
白いワンピースから見える細い腕も
ピクリとも動かない。

ただ淡々と
しっかりと
声が聞こえてくる。


『静岡から戻って一週間後くらいのことだよ?』

何か言わないと。

『もう時間がなかったの。』

何か。あゆみが泣いてしまう。

『私は』

泣かないで。

『人殺しなの。』


バンッ!

冷蔵庫の扉を力一杯閉めて機械音を遮った。

冷蔵庫の冷気ですっかり冷えきったあゆみの体を
後ろから抱き締める。


私は人殺しなの。

その時のあゆみの声は
小さく震えていた。


「一人で
一人で病院に行ったのか?」


あゆみが力一杯何度も頷く。

そのたび抱き締めた俺の腕にポタポタと
たくさんの涙が落ちる。

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