東京
あゆみの住む駅につき
住所の方へ走る。
分からないはずの初めての町。
楽しそうに帰り道の話をするあゆみの言葉を思い出しながら進む。
まっすぐまっすぐ行くだけだよ?でね、小さい酒屋さんを曲がると雑木林があるの。そのあとバーンて雑木林ぬけてぇ…
と言ったところで俺は、うるせぇな眠れないだろ
と話をぶったぎった。
雑木林にたどり着けたのに、その先が分からない。
「くそ。」
住所を知ってたって、土地勘がないと分からないじゃないか。
「くそっ!」
悔しさで、カバンを地面に叩きつけると
手帳と財布がスコンッと飛び出した。
何だよ、何なんだよ。と、苛立ちながら中身を拾う。
雑木林の隙間から
風がブオッ−と吹き抜ける。
手帳の中からは、ペタンコにつぶれたマイルドセブンが1本姿を見せた。
「いいなぁ何かタバコってかっけぇ。」
出会った春に、煙草を吸うばっちにそう言った。
「俺も吸っちゃおっかなぁ。はは。」
ザワザワっ…
木々揺れる。
やめとけよ。何か、らしくないよ。
真悟は真悟に似合うことしてよ。
「なにそれ」と聞くと、ばっちは
んーストローでいいんじゃない?とケタケタ笑った。
何だよーとすねた俺に、お守りなっと言ってくれた1本。
ありがとう。
本当に守ってくれてたんだな。