ラスト・ラブ
ラスト・ラブ
「うわあ、懐かしい」
感嘆の声が自然とこぼれた。
「俺も久々」
着こんだダウンコートのポケットに両手を突っこみながら、隣を歩く彼が高揚した面持ちで言う。
顔が赤らんでいるのは、アルコールを口にしたせいだろう。
クリスマスも過ぎた2日後に同窓会が開催された。
2年の秋から卒業までつきあった元彼が来るのは予想がついたけど、お互いに昔の想いがよみがえったのか、こっそりと抜けだして母校へ来ていた。
この敷地に足を踏み入れるのは、卒業して以来だからじつに10年ぶりとなる。
すでに冬休みに入っているようで、校内はしんと静寂が満ちている。
「あんな抜け道、まだあったんだね」
「よく2人で抜けてサボったよな」
ノリと勢いだけで訪れたものの、当然のように校門は施錠されていて、あきらめて帰ろうと言いかけた時、彼がグラウンド脇のフェンスから抜けられたのを思いだしたのだ。
いざ入ってみても、どこのドアも鍵がかかっていた。
グラウンドに立ちすくんで、緑色の避難口誘導灯が漏れる薄暗い校舎を仰ぎ見る。
「やっぱ教室は入れないよね」
「そうだな」
同じ時間を過ごした。
バカみたいな冗談ばかり言いあって。
笑い声は絶えることはなく。
時にはつまらない意地も張って。
だけど、この世界だけがすべてだった。
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