ピアニストの我が儘
「俺、東京の音大に行く」
翔が言った。
「パリ留学は?」
鍵盤に置かれた翔の長い指が、ぎゅっと丸くなる。
「パリには行かない。おまえ、いないんだもん」
「なに言ってんの」
「俺、おまえが必要。彼氏と別れて」
「そんな、無茶な。私、一応彼を好きになって付き合い始めたのよ?」
「知ってる。ずっと見てたから」
翔が立ち上がる。
鍵盤に手を置いたまま、私を引き寄せた。
「これ、どっちも俺に必要なもの」
それって、ピアノと私ってこと?
「お願い」
私が頷かなければ、子供の頃に泣いていたような顔する。
「彼氏のこと諦めて」
翔の唇が、私の頬を撫でる。そのまま、ゆっくりと降りてくる唇。
私は諦めて、目を閉じた。
―おわり―
翔が言った。
「パリ留学は?」
鍵盤に置かれた翔の長い指が、ぎゅっと丸くなる。
「パリには行かない。おまえ、いないんだもん」
「なに言ってんの」
「俺、おまえが必要。彼氏と別れて」
「そんな、無茶な。私、一応彼を好きになって付き合い始めたのよ?」
「知ってる。ずっと見てたから」
翔が立ち上がる。
鍵盤に手を置いたまま、私を引き寄せた。
「これ、どっちも俺に必要なもの」
それって、ピアノと私ってこと?
「お願い」
私が頷かなければ、子供の頃に泣いていたような顔する。
「彼氏のこと諦めて」
翔の唇が、私の頬を撫でる。そのまま、ゆっくりと降りてくる唇。
私は諦めて、目を閉じた。
―おわり―