痛い恋なのかな?

 ――カーテン越しに差し込む朝日。
 最悪の夢から覚めた。
 さわやかな光が無性に目障りだった。
 脳裏に残っているのは、タマのしなやかな肢体と深い後悔。
 トラウマで心が焼きただれた。
 
 こうも夢見が悪いと二度寝もできない。
 俺は起き上った。
 あれ?
 ベッドじゃない?
 リビングのソファーだ。
 なんでここで寝てたんだ?

 バスルームからはシャワーの音が聞こえる。
 ……ああ、そうか。
 寝ぼけた頭に昨夜の記憶が戻った。
 
 俺はキッチンへ移動した。
 コーヒーを淹れるためだ。
 キッチンの隣は脱衣場を兼ねた洗面室。
 その奥がバスルームだ。
 シャワーの音がドア越しに聞こえる。


(あら、起しちゃった?)


 バスルームの中からくぐもった声がした。


「いや、大丈夫だよ」

(ポチ、ごめ~ん。もう出るからちょっと待ってて)

「急がなくていいよ、別に」


 そう言って、俺は二人分のコーヒーを用意する。
 俺とタマの分。


 昨夜、タマが俺の部屋に泊まりに来た。
 珍しいことではない。
 毎週末とは言わないが、それに近い頻度で泊まっていく。

 だからといって、俺たちは付き合っているわけではない。
 昔と同じ、『幼なじみ』の関係のままだ。
 だけど、一緒に酒を飲むことはない。
 一緒に寝ることもない。
 それは、あの夏の日が最初で最後だ。

 タマがどういうつもりでウチへ泊まりに来るのか分からない。
 いつも勝手に押しかけてくるのだ。
 そのたびに俺はリビングのソファーで寝る。

 あの夏の日の出来事は、もう7~8年前だ。
 あの一回だけのことだし、タマはもう忘れたのか、気にしていないのかも知れない。
 俺は今でも夢に見るというのに……。
 女というのは、こういうところでデリカシーのない生き物かもしれない。
 いや、俺が情けないだけか。
 きっとそうだ。

 それでも一緒にいられることが嬉しい。
 幼なじみという関係のまま。
 終わることのないトラウマの中で。


 ……痛いよ。

 <<END>>

 本作品は別作品のスピンオフです。
 よろしければ本編『ポチタマ事件簿』もお読みください。
 本編ではタマが活躍(?)します(笑
 TOPから『ポチタマ』で検索すればHITします。
 
 作者 sian拝
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