愛罪
「そらだよーって!」
「そらだよー」
「ちーがーう!もっと可愛くー!」
四歳児だからと侮ってはいけなかった。
僕の棒読みを容易く見抜いて頬を膨らました彼女は、さながら般若のように可愛らしい顔を歪める。
「…お兄のバカってパパが言ってるよ!」
「お兄って呼んでるのは瑠海だけだよ」
「…!」
いじけるように言い放った瑠海に彼女の視線までしゃがみ込んでそう言えば、薄い桃色の唇がきゅっと萎縮した。
(…あ、勝った)
なんて、米粒の如く小さな優越感に浸る。
ぷいっとそっぽを向いていても、その小さな手はしっかりと僕の手を捕まえていて、不意に込みあげる愛おしさ。
こんな些細な遠出さえ、瑠海にとって幸せな時間になればいいと願う。
拗ねてしまった彼女の機嫌をどうにかして直す術はないかと思案していれば、パーカのポケットの中で携帯が震えた。
「瑠海、少し待ってね」
携帯を取り出しながら瑠海にそう声をかけても、彼女は完全に無視だ。
やれやれ、そんな風にそっと手を離すと、瑠海は僕を見ずに父親の墓石の後ろへ隠れた。